2018/09/01 (土) 18:21:18

夏を終わらせないツアー 甲子園編

「平成最後の夏」と言われている。詩的な風情を感じると共に、なにか夏らしいことをしなくては、なにかを成し遂げなくてはという焦燥感も加速させられる。
加えて、私にとっては20代最後の夏である。
そこに重なったのは、夏の高校野球、しかも記念すべき第100回大会だった。


試合をテレビで眺めているうちに、やっぱり現地に行きたいとぼんやり思い始めた。
行くとしたら、決勝戦の当日しかない。
夜行バスを使っての鬼スケジュールとなり、暑い環境を過ごす体力勝負な旅になりそうだった。
しかも球場に着いたところで、当日券を買えるかどうかもわからない。早朝に券が完売する日もあり、決勝戦は例年いつ頃完売してしまうのか調べるとなぜか緊張してきて、「行くとしたら」の調べが「行くため」の調べに変わってきた。

日が近づくにつれ、球場に入れなくてもとにかく行きたい、という気持ちになってきた。





8月21日


バスは6:30に、梅田に到着。
旅では目的地に着くと、さっそく新鮮な世界に包まれて楽しくなってくるものだが、今回はそれどころではなかった。
コンビニで朝食と凍った飲み物を買い込んで、阪神電鉄の乗り場を探しに急ぐ。
工事現場の方、駅員さんなどに道を訊ね、なかなか辿り着かず、出勤途中の会社員の方に訊ねてようやく道が拓けた。
直後おばあさんに「駅前第3ビルはどこですかね。」ときかれ、「すいませ、東京から着たもんで!」とだけ言い残して逃げるように地下へ降りた。
梅田は多くの人にとって迷路だ。

臨時で運行されている甲子園行きの特急に乗り込んだ。
特急は、さほど混雑していない。
ツイッターで「アルプス 入場券」と検索して、券が完売していないかどうかを見張り、安心できる情報を探した。




甲子園駅に着くなり、もうお祭りに来た気分になる。
走り出したくなった。
入場券購入の人だかりが見えて、列整理のスタッフもたくさん居た。


「走らないでくださーい!特別自由席は危険です!走らないでくださーい!」


特別自由席とは内野側の、屋根がついていて日陰のある、快適な席のことである。
早々と売り切れの可能性が浮上しており、そんな知らせも兼ねての呼びかけだったのか。
列整理のためロープを持つ複数人のスタッフは、楽しそうにも見えた。
私も、楽しくなってきた。


緊張はまだ続く。
完売しそうな列はそれがわかった時点で、列整理のスタッフからアナウンスされる。
第一希望の1塁側アルプス席は列が進んでいて、
特に「完売」の知らせもなかった。
並ぶと、数分もしないうちに入場券売り場で普通に「大人、一枚」と言ってお金を払えたではないか…


ヤッター!!!!!!
もうこの時点で何かを達成した気分だった。
金足農業側で、観戦できる。
私が入場券を買ったのは7:40頃、その30分後にはアルプス席は完売したとの話を聞いた。
緊張から解き放たれた私は悠々と周辺を歩き、雰囲気を味わった。
「やぁみなさん、私は1塁側アルプス席の入場券を買えた組です」と言わんばかりに。




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3年前に来た第97回大会は、第1回大会から100年目の年。清宮やオコエが球場を興奮させた日だった。
今度も、記念すべき第100回大会、しかも決勝戦の日に来れたとは。
本当に嬉しい。


試合開始まで6時間もある…!
しかし早く球場に入りたく、チケットを切って入場。
緑の芝生が見えた。学校みたいな湿っぽい登り階段から、急に視界が開けた瞬間がたまらない。
この感覚は感動に近いものである。
午前の低い日差し、恵まれた青空。
まだ席は埋まっておらず、選び放題だった。
午後に日陰ができそうな席を確保した。
少し後ろ側には、知らないおじちゃん達・おばちゃん同士が、どこから来たのかと話しながら笑っている。
ブラスバンドが座る席は、黄色いメガホンがきれいに配置されていた。





避暑すべく潜った場所は、売店コーナー。
通路の端に座って、朝サンドイッチを開封した。
食べながら、さてこれから一人で、いかに6時間を過ごそうかと考える…
まずは首にタオルをかけて、洗面で歯を磨き、ようやく顔を洗い、化粧をする。
お土産コーナーを眺める。
完売した商品もあるのか、下調べでたくさん知ったラインナップから随分商品が絞られていた。
お菓子やレトルトカレーすらなく、売店の串焼きを表したキーホルダーとか、キーホルダーとかの、「残り物」的シリーズだった。
しかし、それも充分に面白かった。


次のライブに間に合わせたい新曲の歌詞を完成させる。
こういうときのために、読み終わるのに長くかかりそうな文庫本を持って来たり、スマホで数独をやるのも充分な時間つぶしになるのだが。
いずれも行わず、浅い睡眠と移動で疲れた体が、なにもしたくないと言っている。


記念品にもなる入場券を、いつの間にか無くしていた。
まあいいかと思えたのは、暑さのせいではなく、遠くから来て入場できた満足感からだった。各地から人々が集まった甲子園球場に居ること、それだけで楽しい。
右隣には関西弁のおじちゃん二人、
左隣には、新潟から来たと思われる女子二人。
両サイドもはじめは相方とずっと話をしていたが、次第に、
私を含めすべての人の電池が切れた。




○持って来てよかったもの○

保冷バッグは、買った冷凍ペットボトルや氷など入れておくと、暑い気温の中でも冷たい状態がかなり長持ちするので今後の参考にしたい。

・タオル
・除菌シート
・保冷バッグ




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寝ていたのか、ボーッとしていたのか、本当に思い出せないけど、いつの間にやらフード売店が営業開始する11時になっていた。
売店コーナーのフロアじゅうが、体力温存のために床や壁にへばりつく人で溢れており、早めに涼しい場所に座っておいてよかったと思った。
練習のかけ声が聞こえて、金足農業の紫のユニフォームを来た応援の人たちが見えた。
ギャルが数名居て、みんなユニフォームをだぼだぼに着こなしているのが可愛いかった。そのうち一人のショートパンツのポケットから、煙草とアイコスが飛び出していた。
なるほど、応援は現役の生徒だけではないよね。


試合開始の2時間前には、カレー屋に列。
決勝戦の日は1試合だけだから、特にお昼ご飯を買う時間が集中するからかもしれない。
並ぶと、30分待ちと言われる。
スタッフが店と連携して手際の良い案内をしていた。
ホルモンカレー買って食べた。





1時間前、1塁側アルプスへ行くと、席はたくさんの人で埋まっていた。
反対側のアルプスや外野席に溢れた人を見ると、本当にもうすぐ始まるんだという実感が湧いて来た。

こちら側には紫の「雑草軍団」の人たちがいっぱい居る。
内野席とアルプスの間にあるフェンス越しに「あら、どうも」と挨拶をする、金農を応援しに来た男女の知り合い同士。
決勝に向けて秋田から臨時の飛行機が出ていたと後日友達から聞いたが
そんな風に駆けつけた人たちがいっぱい居たのかと思うと、金農は秋田県、東北の星となっていることがわかる。



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阪神園芸の美しきグラウンド整備を眺めた。
先ほど暇つぶしに呼んだパンフレットで知ったが、甲子園球場の芝生は散水や除草、刈り込みなど手入れにこだわっていて
(どこの人工芝球場もそうかもしれないが)
土も、全国各地から選りすぐったものをブレンド。
元々河川敷だったこの地層の上に、石を分厚く重ねることによって地盤を固くして、水はけをよくしている。
そんなこだわりを知ると、
グラウンドの色がより鮮やかに見えた。




向こう側、大阪桐蔭の選手が先に現れて拍手が起きる。ウォーミングアップのキャッチボールが始まった。
真っ白なユニフォームにきれいなフォーム…
そして声援。
これだけでウワァッと感動してしまった。
続いて金農の選手が現れ、こちら側のアルプス拍手喝采。
「がんばれー!!!」という声が色んなところから聞こえた。
もちろん感動した。
一日に何試合も行われる日と違って、決勝戦は、選手の登場、挨拶、プレイボールからの一球目など、ひとつひとつに重みがある。


ようやく試合開始の14時がやってきた。
準決勝の始球式では、桑田真澄登場。決勝戦では誰が登場するのか。
太田幸司さん、井上明さん。


…はて!どなたか!


第51回の決勝戦でこの舞台に立ったピッチャー同士で
延長18回で引き分け、翌日の再試合でようやく決着がついたという闘いを繰り広げた。
第100回は、どんな歴史が刻まれるんだろう。





先攻は金農。ブラスバンドの演奏が気持ちを高めてくれる。
後ろからは、野球観戦の場に高確率で居るヤジおやじの声。むしろ微笑ましい。
私の前列には、甲子園観戦の常連であろうオジサンやお兄さん4人組。
応援の演奏に慣れているのか手拍子も走らず的確なリズムであった。
酒をばんばん頼んでいて、何種類かのチューハイを銅のタンブラーに入れて分け合っていた。


桐蔭の実力・応援には圧倒されてしまう。
無駄などころに力が入っていないようだった。
てきぱきとした送球、パワーのある打線。得点を与えず、すぐに交代してしまう。
マウンドに登場した吉田投手。
彼への声援はやはり特別厚かった。




金足農 2 - 13 桐蔭 で、金農が準優勝、桐蔭が春夏連覇の王者になった。
試合の途中でゴロゴロと雷が鳴っていたが、
閉会式のときにふと空を見ていたら、彩度の低い空に、別の色が現れた。

虹…!!!

甲子園球場から、大きな虹が見えた。
思わず、隣に座っていた男子2人組に「虹!虹!」と声をかけて感動を分かち合いたかったが、そこをぶち破れる雰囲気ではなかった。
彼らも虹に気づいていたので、
彼らも私も、無言で虹の写真を撮影した。
まるで決勝戦の大舞台に立った両者を讃えているような、ご褒美のような、そんな現象だった。
こんなことってあるんだなぁ。
後日知った話だが、ほぼ同じ時間に、秋田県でも虹が出ていたらしい。
神様は居るのかと思っちゃう。
こんな景色を見せてくれてありがとう。
夢中にさせてくれた球児たちにありがとう。
いつまでも拍手を送った。



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閉会式は映画のエンドロールのようなもので、ここから帰り出す人も多く、
終了後は一気に人が席を離れていった。
バックスクリーンには
「ありがとう さようなら」の文字。
8月、自宅のテレビでずーっと流していた中継、出先で見たネットの速報サイト。
この球場を去ったら、夏が終わってしまうようだった。





球場を出て、外野側周辺を歩いてみた。
神社があった。
平穏な雰囲気が漂っている境内。
球場外のスピーカーから流れる甲子園のテーマがここまで聞こえていて、更によかった。
球場に来たであろう人たちがちらほら立ち寄っていた。
野球ボールの形をした石碑や、ホームベース型の絵馬もあり、ここで甲子園出場を祈る人も多そうだ。



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▲場外には「Joe-Guy」というバー、「ホームラン」という理容室。




更に歩いて新甲子園商店街。
古くから残る店が点在していた。
再び私は球場に戻り、甲子園のまだ歩いてない道を半周。
グッズ売り場は店じまい。
地べたばかり見つめる人々がいて何かと思えば、足もとのタイルひとつひとつに、ローマ字でたくさん文字が刻まれていた。
甲子園出場校の名前や、結婚記念の日付と名前があった。
ここに名前を残したくば、結婚すると良いらしい。


夏らしい、大きな入道雲が出現していた。
次はいつここに来れるかわからないからネチネチと惜しむように歩いていたけど、
また私はここへ来るだろうな、と思った。


梅田方面へ向かう電車のシートに座ると、眠気装置が設置されているのか意識をなくした。
隣の女の子も意識をなくしていて、何度か互いに頭をごちごちぶつけていた。





心斎橋に着くなり、清水湯へ直行した。
のれんのかかった自動ドアを通過すると、短いエスカレーターが登場してわくわくする。
めちゃくちゃヴィンテージというわけでもなく、
ごく普通の、使いやすい銭湯だった。
面白かったのは、脱衣所から浴場へ移動する道がエレベーターもしくは螺旋階段で、
それらの場所を生まれたままの姿で通過することはなかなかない体験である。
常時まとっていた汗を洗い流し、渇いた体が快適な冷気に包まれるのが気持ち良かった。





谷町6丁目。
私は今日を打ち上げるために、行きたい飲み屋へ向かった。
地下鉄から出ると、全体的に街が暗くて、急ぎたいような気持ちになった。
半分眠っている商店街を進んで行くと、
繁盛している洋食屋があり、そして果てのようなところに、行列が見えた。
そこが、私が目的としている「そのだ」だった。
小田急線沿いの街のように、何もなさそうに見えて、良い店が点在しているような街だ。
せっかく来たから並ぶほかない。
私の前にはオシャレ軍団4人組、後ろには仕事帰りの1人組が並んでいた。
待ち時間、ここではじめて持参した文庫本を取り出し、室外機が排出する熱に吹かれながら活字をつかんだ。


入店。
オールカウンター席で、オシャレ軍団の隣に座る。
染み渡る生ビール、蒸し鶏、
右側の人もオシャレ軍団も注文していた空芯菜、
食べたくなって白ごはん、
うずらの燻製、
セーラームーンの小さなグラスに入ったバイス、
(かわいらしいけど酔っぱらいやすいので一人3杯までの注文らしい)
いぶりがっことクリームチーズ。


店内にあるテレビで、今日の決勝戦のニュースが流れ始めた。
もれなく私はそれに釘付けになり、オシャレ軍団も眺めていた。

「なんで第100回なのに、秋田の高校が103年ぶりの決勝進出なの?」
「あっ途中で戦争があったからじゃない。試合ができなかったんだよ。」

正解、頭の回転が早い!
と、私は心の中で思った。
私は、以前知り合いから甲子園の雑誌を借りて、第1回大会からの決勝進出校一覧を読んだからその理由が一目でわかったけれど、そうじゃなかったらしばらく疑問に思っていたかもしれない。

「えっ秋田から当日に飛行機でたの?」
「間に合わないんじゃない?チケットすぐ売り切れるんでしょ?」

バイスを注入したクララは旅先のカウンター席で彼女らにこう言った。

「私、今日これ観に行ったんですよ。東京からバスで。」
「へーっそうなんですか〜!」

朝の7時台にチケットが買えたこと、それからすぐ売り切れてしまったことなど話すと、
L時のカウンターからほぼ全員が私の目を覗いて話を聞いてくれた。
私は、嬉しかった。



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お馴染みのカプセルホテルに帰った。
疲れと酔いを感じながら安らかに眠った。



→夏を終わらせないツアー 神戸・大阪編
 
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